自己参照効果とは?自分と結び付けた情報が記憶に残りやすい理由
同じ言葉でも、別の言葉と意味が同じかを考える場合と、「自分に当てはまるだろうか」と考える場合とでは、後で思い出しやすさが変わることがあります。自分について判断することは、記憶を助ける場合があるのです。
自己参照効果とは、同じ言葉について自分の性格に当てはまるかを判断した場合、言葉の形や意味について判断した場合より、後でその言葉を思い出しやすくなる傾向です。特に性格を表す言葉を使った実験で調べられてきました。ただし、自分と結び付ければ、どんな情報でも必ず覚えやすくなるわけではありません。
自己参照効果とは?同じ言葉でも考え方で記憶が変わる
たとえば「慎重」という言葉を見た二人がいるとします。一人は「慎重は『用心深い』と同じ意味だろうか」と考えます。もう一人は「買い物の前にいくつか比較してから決めることが多い自分は、慎重な人だろうか」と考えます。後から「慎重」という言葉を思い出せるかを比べると、二人目のように自分に当てはまるかを考えた方が、思い出しやすくなることがあります。これは研究の比較を理解するための仮の例です。
比較しているのは、言葉を覚える回数ではなく、言葉に向き合うときに自分のことを考えたかどうかです。自己参照効果の研究では、単語を見て「自分の性格を表しているか」と判断する課題が使われています。自分に当てはまると答えるかどうかだけでなく、判断するときに自分を思い浮かべることが、ここで扱う学び方の特徴です。Rogersら(1977)
その理由として、自分については普段から多くのことを知っているため、目の前の言葉を過去の経験や、すでに知っている自分の特徴と結び付けて考えやすいことが挙げられます。また、関連する言葉をまとまりとして整理することも、後から思い出す助けになると考えられています。これは研究結果を説明する考え方であり、自分との結び付けだけが唯一の原因だと決まったわけではありません。SymonsとJohnson(1997)
研究で分かっていること
自分に当てはまるか考えた言葉が、最も多く思い出された
Rogersら(1977)は、大学生59人が参加した二つの実験で、性格を表す言葉についての判断方法と、その後の記憶との関係を調べました。第1の実験では、参加者は、文字の大きさ、別の言葉との音の似かた、意味の関係、自分の性格に当てはまるかという四つの観点のいずれかから言葉を判断しました。その後、事前に予告していなかった記憶テストで、判断した言葉をどれほど思い出せるか確かめました。
二つの実験では、自分に当てはまるかを考えた単語が、ほかの方法で判断した単語よりも多く思い出されました。ここで確かめられたのは、大学生が性格を表す言葉を判断してから思い出すという条件での違いです。日常のあらゆる情報について、同じ程度の差が出ると示した研究ではありません。Rogersら(1977)
他人について考える場合や、意味を詳しく考える場合との差は小さくなる
SymonsとJohnson(1997)は、自己参照効果を調べた過去の研究をまとめて分析しました。全体として、自分に関係付けて考えた情報は、言葉の意味を考えた情報や、別の人に当てはまるかを考えた情報よりも覚えられやすい傾向が確認されました。
ただし、自分に当てはまるかを考えた場合と、他人に当てはまるかを考えた場合の差は、自分について考える場合と、言葉の意味を考える場合の差より小さくなりました。また、比較する学び方でも、情報同士を結び付けて詳しく考えたり、整理したりするようにすると、自分に結び付ける方法の優位性が小さくなりました。SymonsとJohnson(1997)
情報を整理する条件をそろえると、差がほとんどなくなった研究もある
KleinとKihlstrom(1986)は、大学生272人が参加した五つの実験で、自分に当てはまるかを判断する学び方と、言葉の意味から判断する学び方を比べました。特に、単語同士をどれくらいまとまりとして整理できるかという条件に注目しました。
情報を整理する程度が同じになるようにした場合、後から手がかりなしで単語を思い出す成績は、二つの学び方でほとんど同じになりました。この結果は、自己参照効果を理解するには、「自分に関係する」という点だけでなく、覚える情報をどれだけ整理できたかも考える必要があることを示しています。KleinとKihlstrom(1986)
身近な場面で考える
たとえば、地域の講座で自分の特徴を考えるために、「柔軟」「協調的」といった言葉が並んだ資料を渡されたとします。「予定が変わったとき、自分は対応を変えられるだろうか」「誰かと意見が違ったとき、自分はどう話し合っているだろうか」と振り返り、それぞれの言葉が自分に当てはまるかを考えます。後から資料に載っていた言葉を思い出すとき、考えた経験が手がかりになる可能性があります。
こうした考え方は、自己参照効果の研究を日常に生かす一つの提案です。もとの実験は主に性格を表す言葉の記憶を調べたものであり、勉強する内容が数字や手順に変わっても同じ効果が得られるとは限りません。順番や正確な数値が必要なら、それ自体を確かめる学習も必要です。
自己参照効果が示すのは、学ぶ情報を自分に関係するものとして考えると、覚えた情報の残り方が変わることがあるという点です。自分の経験を手がかりにすることは、言葉をただ眺めるだけでなく、意味を具体的に考えるきっかけにもなります。
参考文献・出典
- Rogers, T. B., Kuiper, N. A., & Kirker, W. S. (1977). Self-reference and the encoding of personal information. Journal of Personality and Social Psychology, 35(9), 677–688. 大学生59人を対象とした二つの実験で、性格を表す言葉の判断方法と後の記憶を比較した研究。
- Symons, C. S., & Johnson, B. T. (1997). The self-reference effect in memory: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 121(3), 371–394. 自分・他人・言葉の意味との結び付けを比較し、情報の整理や詳しい検討が結果にどう関係するかをまとめた研究分析。
- Klein, S. B., & Kihlstrom, J. F. (1986). Elaboration, organization, and the self-reference effect in memory. Journal of Experimental Psychology: General, 115(1), 26–38. 単語を整理する条件をそろえた場合、自分に結び付ける判断と意味からの判断で記憶にほとんど差がなくなることを示した実験研究。