タスク切り替えコストとは?作業を切り替えると時間やミスが増える仕組み

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

文章を読んでいる途中でメッセージに返信し、読書に戻ると「どこまで読んだっけ」と感じることがあります。作業を切り替えた直後には、同じ作業を続けるときより、判断や反応に時間がかかることがあります。この違いを「タスク切り替えコスト」と呼びます。間違いが増える場合もあります。

タスク切り替えコストとは?

タスク切り替えコストとは、何を判断し、どう答えるかという作業の決まりを切り替えるときに見られる負担のことです。研究では、たとえば「数字が偶数か奇数かを答える課題」と「文字が母音か子音かを答える課題」を用意し、参加者に交互に取り組んでもらいます。

大切なのは、同じ課題を続けた直後と、別の課題から切り替えた直後を比べることです。文字を判定するときなら、直前も文字を判定した場合と、直前は数字を判定していた場合を比べます。後者の方が答えるまでの時間が長ければ、その差が切り替えに伴う負担の一つの目安になります。間違いの割合も調べられます(Monsell, 2003)。

つまり、二つの作業を同時に進めているときだけの問題ではありません。一つずつ順番に取り組んでいても、何をするかが変わる直後に負担が生じることがあります。

なぜ作業の切り替えで負担が生じるのか

数字の偶数・奇数を判断していた人が、次に文字の母音・子音を判断するとします。このときは、注目する対象だけでなく、答えを決める基準も変えなければなりません。次の課題に合わせて「今は何を見て、どう答えるか」を整える過程が、反応に時間を要する理由の一つと考えられています。

また、前の課題で使っていた判断の仕方がすぐには消えず、新しい課題の邪魔になる場合もあります。研究では、切り替えるための準備と、前の課題から持ち越される影響の両方が検討されています。どちらか一つだけで、すべての切り替えコストを説明できるわけではありません(Kieselほか, 2010)。

研究では何が確かめられたのか

RogersとMonsell(1995)は、数字の偶数・奇数と文字の母音・子音を判定する課題を使い、次にどちらを判定するかが予測できる状況を調べました。次の問題が現れるまでの時間を長くすると、課題を切り替えた直後の反応の遅れは小さくなりました。しかし、準備できる時間が1.2秒あっても、切り替え直後の遅れは残りました。次の課題が分かっていれば、ある程度は準備できますが、それだけで負担がなくなるとは限らない結果です(Rogers & Monsell, 1995)。

Rubinsteinほか(2001)は、図形を異なる決まりで分類したり、計算の種類を変えたりする四つの実験を行いました。課題の決まりが複雑な場合ほど切り替えに伴う時間の増加が大きくなり、次に何をするかの手がかりが示されると、その増加は小さくなりました。切り替える課題の内容や、事前に得られる情報によって負担が変わることを示しています(Rubinsteinほか, 2001)。

さまざまな実験を整理したMonsell(2003)の論文でも、課題を切り替えた直後は、同じ課題を繰り返した場合より反応が遅くなり、間違いも多くなることが一般的だと報告されています。ただし、間違いが必ず増えるという意味ではありません(Monsell, 2003)。

実験室の外を調べた研究もあります。Bartekほか(2023)は、研修中の医師75人が電子カルテを操作した記録を調べ、別の作業から切り替えた直後は、同じ種類の作業を続けた場合より、記録の入力など一部の作業に時間がかかる傾向を報告しました。ただし、実際の業務記録を比較した研究なので、切り替えだけが時間の差を生んだと断定はできません(Bartekほか, 2023)。

身近な場面で考える

たとえば、ある人が旅行の予定を立てながら、交通機関の時刻と料金を調べているとします。途中で友人から連絡が来て返信し、調べ物に戻ると、どの経路まで比較したのかを確認し直すかもしれません。これには、中断した内容を思い出す手間も含まれます。実験で測られた短い判断課題の切り替えコストと、日常の複雑な作業に戻る手間が、まったく同じものだとは言えませんが、作業の切り替えが負担になり得る場面として考えられます。

切り替えを減らせる場面なら、一つの作業に区切りを付けてから次へ移ることが考えられます。また、切り替える前に次の作業を把握しておくことは、実験で準備が負担を小さくした結果ともつながります。ただし、日常のどの作業でも必ず時間やミスが減ると確認されたわけではありません。

タスク切り替えコストが示しているのは、作業を一つ終えて別の作業を始めるだけでも、頭の中では判断の基準を整え直す必要があり、その影響が反応の時間や正確さに表れることがある、という点です。

参考文献・出典