アフォーダンス理論とは?環境と身体の関係から「できる行動」を考える

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

同じ高さの段差でも、大人は一歩で上がれるのに、小さな子どもには高すぎることがあります。段差そのものが変わらなくても、そこにいる人の身体によって「できること」は違います。アフォーダンス理論は、環境にどんな行動の可能性があるかを、環境と、それを利用する人や動物との関係から考える理論です。

アフォーダンス理論とは?

心理学者ジェームズ・ギブソンは、環境が動物に与える行動の可能性を「アフォーダンス」と呼びました。たとえば、平らで十分に広く、体重を支えられるほど硬い地面は、そこに立ったり歩いたりすることを可能にします。同じ面でも、体の大きさや重さが違う動物にとって、支えになるかどうかは変わり得ます(Gibson, 1979)。

椅子も、座面の高さだけで座りやすさが決まるわけではありません。座る人の脚の長さや体の動かし方と組み合わせて考える必要があります。ギブソンは、物の形や大きさを測るだけでなく、その物が自分にどんな行動を可能にするかという見方を重視しました。

ここでいう「できること」は、「いま実際にしたいこと」と同じではありません。座れる場所があっても、座らずに通り過ぎることはあります。また、そこに座れると気づかなくても、座ることを可能にする条件まで消えるわけではありません。こうした区別は、アフォーダンスの研究を整理した解説でも示されています(Chemero, 2024)。

環境と身体の関係を、どのように捉えるのか

ギブソンは、私たちが周囲を見たり動いたりするとき、物までの距離や形だけでなく、そこを通れるか、登れるか、手が届くかといった行動の可能性も捉えられると考えました。たとえば、段の高さを見るだけでなく、その高さを自分の脚で上がれそうかを判断するということです(Gibson, 1979)。

この理論では、環境の情報から行動の可能性を直接捉えられるという考え方も重要です。ただし、それがどのように実現するか、必ず直接捉えられるのかについては、現在も研究者の間で議論があります(Chemero, 2024)。実験では、階段や通路などの具体的な場面で、人が身体に合った行動をどのように判断するかが調べられてきました。

研究では何が確かめられているのか

1984年:階段の上りやすさと脚の長さ

ウォーレン(1984)は、男子大学生を対象とした三つの実験で、階段の段の高さと脚の長さの関係を調べました。登れるかどうかの判断を比べると、背の高い人と低い人では、登れないと感じる段の高さが異なりました。しかし、その高さを各人の脚の長さに対する割合で捉えると、判断の境目は近くなりました。

別の実験では、実際に階段を登るときに必要なエネルギーと、目で見て上りやすいと感じる段の高さの関係も調べました。上りやすさの判断が、体格と階段の組み合わせに関係していることを示した研究です(Warren, 1984)。

1987年:通路を通るために肩を回す判断

ウォーレンとワン(1987)は、体格の異なる参加者がさまざまな幅の開口部を歩いて通る様子を記録し、肩を回して通るようになる境目を調べました。さらに、その幅を見て通れるかどうかを判断する課題も行いました。

歩いているときに肩を回し始める境目は、通路の幅そのものより、通路の幅が自分の肩幅に対してどれくらいあるかという関係で説明できました。通路が「通りやすい」かどうかは、幅の数字だけでは決まらないことを示しています(Warren & Whang, 1987)。

2010年:実際に通る経験は判断を変えるのか

フランチャクら(2010)は、幅を変えられる通路を使い、参加者を二つのグループに分けました。一方は先に通路を実際に通ってから「この幅なら通れるか」を判断し、もう一方は先に判断してから通路を通りました。

先に通る経験をしたグループでは、「通れる」と判断した幅と、実際に通れた幅との対応がより強く見られました。人は自分の身体に合った行動の可能性を判断しますが、その判断は、実際に行動した経験からも影響を受けることが分かります(Franchakほか, 2010)。

2014年:子どもは「手が通る穴」をどう判断するのか

イシャクら(2014)は、生後16か月から7歳までの子どもと大人について、大きさの違う穴に手を通せるかを調べました。実際に手が通る穴の大きさと、本人が通そうとする穴の大きさを比べています。

どの年齢の参加者も穴が大きくなるほど手を通そうとする傾向を示しました。一方、生後16か月から5歳までの子どもは、7歳児や大人に比べ、実際には手が通らない穴にも手を入れようとすることが多くありました。環境にある行動の可能性と、それを正しく判断できるかは、分けて考える必要があります(Ishakほか, 2014)。

身近な場面で考える

たとえば、家族で公園のベンチを選ぶ場面を考えてみてください。大人には腰を下ろしやすい高さでも、背の低い子どもには足が地面に届かず、座りにくい場合があります。ベンチの高さは同じでも、座る人の体格によって、座りやすさが違うのです。

ベンチが濡れていたり、座面が不安定だったりすれば、同じ人にとっても座る条件が変わります。こうした例は、アフォーダンス理論を日常に置き換えたもので、紹介した階段や通路の研究でベンチの使いやすさを測定したわけではありません。

アフォーダンス理論が示す大切な視点は、「その物で何ができるか」を考えるには、物だけでなく、行動する人の身体や能力も見る必要があるということです。同じ環境でも、誰がどのような行動をするかによって、利用できる可能性は変わります。

参考文献・出典