言語相対性仮説とは?使う言語はものの見方や考え方に影響するのか
同じ青い色でも、言語によって「何色」と呼ぶかの区切り方は異なります。こうした言葉の違いは、色を見分ける速さや、ものの数を覚えるときの判断にも関係するのでしょうか。言語相対性仮説は、使う言語の特徴がものの捉え方や考え方に影響することがある、という考え方です。実験で影響が見つかった場面はありますが、言語によって考えられることがすべて決まるわけではありません。
言語相対性仮説とは?
言語相対性仮説は、日常的に使う言葉や表現の違いが、人の注意の向け方、記憶、判断などに影響する可能性を示した仮説です。「サピア=ウォーフ仮説」という呼び名でも知られています。
この仮説を考えるときには、主張の強さを分ける必要があります。「ある言葉がなければ、それに当たることは考えられない」という考えと、「言葉による区切り方が、特定の場面での判断を助けたり偏らせたりする」という考えでは、意味が違います。現在の研究では主に後者のような、実験で確かめられる影響が検討されています(Pae, 2022)。
たとえば、似た色に別々の名前があれば、二つを比べるときに言葉が手がかりになるかもしれません。ただし、ある色を呼ぶ言葉を知らない人でも、その色を目で見られなくなるわけではありません。言葉が判断に関わることと、言葉がなければ判断そのものが不可能になることは、区別して考えます。
研究では何が確かめられているのか
2007年:青を表す言葉の違いと、色を見分ける速さ
ロシア語では、比較的明るい青と暗い青に、日常的に別の基本的な色名を使います。英語では、どちらも広く「blue」と呼ぶことができます。ウィナワーら(2007)は、ロシア語話者と英語話者に青い四角形を三つ同時に見せ、上の四角形と同じ色を下の二つから選んでもらいました。
ロシア語話者は、比べる二色がロシア語で異なる色名に分かれるとき、同じ色名に入るときより速く答えました。英語話者には、同じ色見本で対応する速さの違いは見られませんでした。さらに、別の言葉を使う課題を同時に行うと、ロシア語話者に見られた有利さはなくなりました。一方、言葉を使わない別の課題を同時に行った場合には、その有利さが保たれました(Winawerほか, 2007)。
この結果は、色の違いを見分ける反応の速さに、色名が関わったことを示します。特に色同士が近く、見分けにくい場合に違いが大きくなりました。英語話者が二つの青を区別できなかったという結果ではありません。
2008年:数を表す言葉がなくても、数量を対応させられるのか
フランクら(2008)は、正確な数を表す言葉を使わないと報告されている、アマゾン地域のピラハ語話者に、ものの数を合わせる課題を行ってもらいました。目の前に見えているものを一つずつ対応させる条件では、数が多い場合でも正確に合わせられました。
一方、見えていたものの数を覚えておき、あとから合わせるような条件では、正確に答えるのが難しくなりました(Frankほか, 2008)。この結果から研究者らは、数を表す言葉は、離れた場所や時間をまたいで数量を覚え、扱うための道具として役立つと考えました。数を表す言葉がなくても数量の違いを扱える場合があるため、「言葉がなければ数を考えられない」とは言えません。
2015年:色名の影響は、いつでも同じなのか
ヴィッツェルとゲーゲンフルトナー(2015)は、もともとの見分けやすさが同程度の色を選び、色の名前で分かれる境目をまたぐ場合と、同じ色名の範囲内の場合で、答える速さや間違いを比べました。
この研究では、こうした課題に慣れていない参加者の集団では、調べた六つの色の分類のうち五つで、色名の境目をまたぐ色を見分ける際に有利さが見られました。しかし、課題に十分慣れた別の集団では、その有利さが安定して見られませんでした(Witzel & Gegenfurtner, 2015)。ロシア語と英語を比べた2007年の研究をそのまま繰り返した実験ではありませんが、色の分類による判断の違いが、課題への慣れや注意の向け方にも左右されることを示しています。
2020年:ロシア語の青の区切りを調べ直した研究
マルティノヴィッチら(2020)は、2007年の研究に近い課題でロシア語話者と英語話者を比較し、別の実験ではロシア語話者が明るい青と暗い青、青と緑を見分ける速さを調べました。二つの実験では、明るい青と暗い青の境目をまたぐと反応が速くなるという違いを確認できませんでした。一方、明るい青と緑の境目では、反応が速くなる結果が見られました(Martinovicほか, 2020)。
使った色などは2007年の実験と一部異なるため、完全に同じ条件での再現ではありません。それでも、ロシア語の青の色名と反応の速さの関係について、異なる研究結果が報告されていることは重要です。なお、2020年の論文には2026年に訂正記事が刊行されています(Martinovicほか, 2026)。
言語だけで考え方の違いを説明できるのか
言語の違いと考え方の違いが一緒に見つかっても、言語だけが原因とは限りません。育った環境や、実験中に利用できる情報も関係します。
リーとグライトマン(2002)は、英語を話す人たちに、向きを変えたあとで物の並び方を再現してもらう実験を行いました。周囲の目印の条件を変えると、同じ言語を使う人たちの間でも、自分から見た左右を基準にするか、周囲の場所や方角を基準にするかが変わりました。研究者らは、位置の捉え方には言語以外の手がかりも関わると論じました(Li & Gleitman, 2002)。
これに対し、レヴィンソンら(2002)は、位置を表す基準の種類を十分に区別していないと批判し、自分たちの追加実験をもとに言語による影響の解釈を支持しました(Levinsonほか, 2002)。このように、同じ研究課題に近い実験でも、何が違いを生んだのかについて議論があります。
言語相対性仮説については、何を比べた研究なのかが大切です。色の判断にかかる時間、数を覚えておく正確さ、位置の記憶の仕方は、それぞれ別の働きです。ある課題で言語の影響が確認されても、その結果だけで生活全体の世界の見方まで決まるとは言えません。
身近な場面で考える
たとえば、家族が部屋のカーテンを選ぶために、よく似た青い布の見本を並べたとします。一人は「水色」「青」「紺色」と名前を分けながら比べ、もう一人はどれもまとめて「青」と呼んでいるとします。色の名前を分けている人は、その区切りを比較の手がかりにするかもしれません。
ただし、これは言語相対性仮説を理解するための仮の例です。紹介した研究では、カーテン選びの満足度や、どちらの人が良い品を選ぶかを測ったわけではありません。どの名前を使う人も、実物の布の色や明るさを見比べることはできます。
言語相対性仮説は、普段使っている言葉が、何に注意を向け、どのように比べたり覚えたりするかに関わる場合があることを考える手がかりになります。その影響の大きさや現れ方は、言語の違いだけでなく、何を判断するか、その場で言葉を使えるか、ほかにどんな情報があるかによって変わります。
参考文献・出典
- Pae, H. K. (2022). Toward a script relativity hypothesis: focused research agenda for psycholinguistic experiments in the science of reading. Journal of Cultural Cognitive Science, 6, 97–117. 言語相対性仮説の説明と、言語が思考を決めるという強い主張・影響するという穏当な主張の区別を整理した総説。
- Winawer, J., Witthoft, N., Frank, M. C., Wu, L., Wade, A. R., & Boroditsky, L. (2007). Russian blues reveal effects of language on color discrimination. Proceedings of the National Academy of Sciences, 104(19), 7780–7785. ロシア語と英語の色名の違いと、色の判断の速さ、言葉を使う別課題の影響を調べた研究。
- Frank, M. C., Everett, D. L., Fedorenko, E., & Gibson, E. (2008). Number as a cognitive technology: evidence from Pirahã language and cognition. Cognition, 108(3), 819–824. 正確な数を示す言葉を使わない話者について、目の前の数量を合わせる課題と、数の記憶を必要とする課題を比べた研究。
- Witzel, C., & Gegenfurtner, K. R. (2015). Categorical facilitation with equally discriminable colors. Journal of Vision, 15(8), 22. 色名の境目による見分けやすさの違いと、課題への習熟による変化を調べた研究。
- Martinovic, J., Paramei, G. V., & MacInnes, W. J. (2020). Russian blues reveal the limits of language influencing colour discrimination. Cognition, 201, 104281. 2007年の青の見分けに関する結果を調べ直し、明るい青と暗い青の境目では同じ反応速度の差が確認されなかった研究。関連する訂正記事:Martinovicほか(2026)、Corrigendum。
- Li, P., & Gleitman, L. (2002). Turning the tables: language and spatial reasoning. Cognition, 83(3), 265–294. 英語話者の位置の記憶課題で、周囲の目印を変えたときの判断を調べ、環境の役割を論じた研究。
- Levinson, S. C., Kita, S., Haun, D. B. M., & Rasch, B. H. (2002). Returning the tables: language affects spatial reasoning. Cognition, 84(2), 155–188. 位置の記憶研究の解釈について、先行研究を批判し、言語の影響を支持する追加実験を報告した研究。