注意回復理論とは?自然に触れる体験と集中力の回復を考える

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

勉強や書類の確認を長く続けたあと、木々を眺めたり公園を歩いたりすると、もう一度集中しやすくなることがあります。注意回復理論は、意識して注意を向け続ける働きが疲れたとき、自然のように無理なく関心を向けられる環境で過ごすことが、その回復を助けるという考え方です。ただし、自然に触れれば誰でも必ず集中力が上がると確かめられたわけではありません。

注意回復理論とは?

注意回復理論は、心理学者スティーブン・カプランが発展させた、注意を使う活動で疲れたあとに、どのような環境がその働きの回復に役立つかを説明する理論です(Kaplan, 1995)。

たとえば、文章を読む人が、周囲の話し声や通知を気にせず内容を追うには、読むことへ意識を向け、関係のない情報に引っ張られないようにする必要があります。このような、自分で意識して注意を向けたり、気が散るのを抑えたりする働きは、長く使い続けると疲れ、課題の出来が落ちることがあると考えられています。

一方、そよぐ木の葉や流れる雲などは、集中しようと頑張らなくても自然に目が向くことがあります。カプランは、こうした穏やかな関心の向き方なら、意識して注意を保つ働きを使う負担が減り、その回復につながると考えました。これは理論が示す仕組みであり、脳の中の回復過程がすべて直接観察されたという意味ではありません。

どのような環境が回復に役立つと考えられているのか

カプランは、回復しやすい体験には、周囲が自然であることに加えて、次のような特徴が関わると説明しました(Kaplan, 1995)。

  • いつもの課題から離れたと感じられること:勉強や仕事から気持ちを切り替え、目の前の用事を考え続けなくて済む。
  • 無理に集中しなくても興味が向くこと:葉の揺れや水の流れなどが、穏やかに注意を引き付ける。
  • 周囲の景色や体験にまとまりがあること:見回したときに、その場所の様子を一つの広がりとして捉えられる。
  • そこで過ごすことが自分の目的に合っていること:歩きたい、静かに眺めたいといった気持ちと、環境でできることが合う。

たとえば、同じ緑の多い場所でも、車を避け続けなければならない道では、周囲に気を配る負担が大きくなります。自然の中ならどこでも同じように休めるというより、その場所で、どのような注意の使い方をするかが大切だという説明です。理論では自然以外の環境にも回復の可能性があります。

自然に触れると注意の働きは変わるのか

2008年:公園と市街地を歩いた後の記憶課題

バーマンら(2008)は、大学生に注意を使う課題を行ってもらったあと、樹木の多い公園と交通量の多い市街地を、別々の日に約50〜55分ずつ歩いてもらいました。歩く前後には、聞いた数字を逆の順番に言い直す課題を行いました。この課題には、数字を覚えながら順序を組み替える働きが必要です。

同じ参加者が二つの場所を歩いた結果、公園を歩いた後の方が、市街地を歩いた後よりも、この課題の成績が大きく改善しました。研究者らは、自然の多い環境が注意を使う働きの回復に役立った可能性を示す結果と解釈しています(Bermanほか, 2008)。

2008年:自然の写真を見るだけでも違いがあったのか

同じ論文の別の実験では、大学生12人が自然の写真または都市の写真を約10分間見て、前後に注意や記憶の課題を行いました。中央の矢印が指す方向を、周囲の矢印に惑わされずに答える課題では、自然の写真を見た後の方が都市の写真を見た後より、邪魔な情報への対処に関わる成績が改善しました。

数字を逆順に言う課題でも、自然の写真を見た後には成績の改善が見られました。ただし、この課題では、自然の写真と都市の写真で改善の大きさが明確に異なるという結果までは得られていません(Bermanほか, 2008)。何を測るかによって、確認できる違いは同じではなかったのです。

多くの研究をまとめると何が分かるのか

オーリーら(2016)は、自然に触れる条件と、それ以外の環境に触れる条件を比べ、注意に関する課題の成績を測った31研究をまとめました。その結果、数字を順に、または逆に覚えて答える課題など、三つの測定方法では自然に触れることに有利な結果が見られました。一方、残る10の分析では、明確な改善は確認されませんでした(Ohlyほか, 2016)。

さらにベルら(2025)は、80研究で得られた273の比較結果をまとめました。自然に触れる条件では、都市など自然以外の条件に比べ、認知課題の成績が平均してわずかに良い傾向がありました。特に、情報を一時的に覚えながら扱う課題と、不要な情報に惑わされず答える課題で、比較的確かな差が確認されました。一方、調べられたすべての能力に同じ利点があったわけではなく、研究ごとの違いも大きい結果でした(Bellほか, 2025)。

この研究では自然に触れる時間も比較され、全体を合わせると30分前後で差が大きくなる傾向が推定されました。ただし、異なる実験をまとめて調べた結果であり、誰でも30分過ごすのが最適だと実証したものではありません。また、成績の改善が確認されても、理論のいう「意識して使う注意が休んだ」という過程自体を、すべての研究で直接測ったわけではありません。

身近な場面で考える

たとえば、自宅で資格試験の問題を解き続け、途中から文章を読み間違えやすくなった人がいるとします。その人が休憩中に近所の静かな公園を歩き、木々や空を眺めると、問題から気持ちを離しながら過ごせるかもしれません。これは注意回復理論を日常に当てはめた仮の例で、紹介した研究で資格試験の点数が上がると確かめられたわけではありません。

無理に遠くへ出かけなくても、落ち着いて自然の景色を眺められる環境を選ぶことは、一つの方法として考えられます。自然の写真を使った研究もありますが、現実の散歩と写真の効果が同じだとは限りません。本人の体調や場所の安全性、そこでどれだけ気を張る必要があるかも考えて選ぶことが大切です。

注意回復理論が示しているのは、集中を続けるためには、さらに頑張るだけでなく、注意の向け方が変わる体験にも意味があるかもしれないという考え方です。自然に触れることが一部の課題の成績に役立つ傾向は研究で確かめられていますが、その大きさや当てはまる場面には違いがあります。

参考文献・出典