学習性無力感とは?状況を変えられない経験がその後の行動に与える影響

心理学の法則・効果
なるほど心理学編集部

たとえば、何を選んでも「不正解」と表示される問題を繰り返し解いたとします。その後、正解が用意された別の問題に移っても、「どう答えても無駄だ」と感じ、答えを試す回数が減るかもしれません。

学習性無力感とは、自分の行動で結果を変えられない経験をした後、別の場面では結果を変えられる可能性があっても、試す行動が減ったり、新しいやり方を学びにくくなったりする現象です。ただし、そうした行動がなぜ生じるかについては、研究の進展によって説明が見直されています。

学習性無力感とは?「行動しても変わらない」という経験の影響

この現象を考えるうえで重要なのは、嫌な出来事の有無だけでなく、自分が何をすると結果が変わるかです。たとえば、うるさい音が鳴っていても、ボタンを押すと止まる状況と、何をしても止まらない状況では、自分の行動と結果の関係が違います。

学習性無力感の研究では、こうした経験の後に、別の課題で試す行動がどう変わるかを調べてきました。最初の場面では自分にできることがなかったとしても、次の場面では状況を変える方法が用意されています。それでも、その方法を試さない、あるいは見つけるのに時間がかかることがあるのです。

ここで「無力感」という名前は、本人の能力が低いとか、いつも努力しないという意味ではありません。特定の条件で観察される行動や学習の変化を説明するための名前です。

研究で確かめられたこと

1967年の実験:同じような刺激でも、自分で止められたかが違った

セリグマンとマイヤー(1967)は、イヌを使い、不快な電気刺激を受けた後の行動を比較しました。一方のグループは、頭で板を押すと刺激を止められるようにしました。別のグループは、回数や長さをそろえた刺激を受けましたが、頭で板を押しても止められませんでした。刺激を与えないグループも比較に含めました。

翌日、イヌを別の装置に移し、仕切りを越えれば電気刺激を避けたり止めたりできる状況で調べました。先に自分で刺激を止められたグループと、刺激を受けなかったグループは逃れる行動を学びました。一方、先に何をしても刺激を止められなかったグループでは、仕切りを越える行動が現れにくくなりました(Seligman・Maier、1967)。

この実験が示したのは、最初の状況で結果を自分の行動によって変えられたかどうかが、次の状況で逃れる行動に影響したということです。すべての動物が同じ反応をするという意味ではありません。

1975年の実験:人でも別の課題に影響が見られた

ヒロトとセリグマン(1975)は、大学生96人を対象に四つの実験を行いました。最初に、ボタンで不快な音を止められる場合と止められない場合、あるいは正解できる問題と、どの答えを選んでも正解にならない問題などを経験させました。そうした経験を与えないグループも比較しました。

続いて、操作すれば音を止められる別の課題や、文字を並べ替えて単語を作る問題に取り組んでもらいました。最初の四つの実験のうち三つでは、先に結果を変えられなかった人は、結果を変えられた人や事前の課題を経験しなかった人と比べ、後の課題で音を止めたり問題を解いたりするのが難しくなりました。

一方、正解のない問題を経験してから単語を作る課題に取り組んだ実験では、最初は明確な差が見られませんでした。研究者が初めの課題を三つから四つに増やし、別の大学生24人で追加実験を行うと、後の単語を作る課題で差が見られました(Hiroto・Seligman、1975)。結果は、最初に経験する課題の条件によっても変わったのです。

これは実験で設定された音や問題への反応を調べた結果です。日常で発言しない人や、何かを諦めた人が、必ず学習性無力感の状態にあると判断できる研究ではありません。

なぜ、その後も行動しにくくなるのか

当初の説明と、神経科学による見直し

当初、研究者たちは「何をしても結果が変わらない」と学んでしまうため、その後も行動を起こしにくくなると考えました。過去に行動が役立たなかった経験から、次も役立たないと予想するという説明です。

しかし、マイヤーとセリグマン(2016)は、主に動物の脳を調べた研究を踏まえ、この説明を見直しました。長く続く不快な刺激の後に逃れる行動が減るのは、必ずしも「無力だと学んだ」ためではなく、刺激を受けることによって生じる反応そのものだと説明しています。一方、自分の行動で刺激を止められると学ぶことには、その反応を抑える働きがあると考えています(Maier・Seligman、2016)。

つまり、古い説明と新しい説明では「何を学ぶことが重要か」が異なります。研究で見られた行動の変化自体と、その変化を生み出す仕組みの説明は、分けて理解する必要があります。動物の脳の研究から分かった仕組みを、そのまま人の日常のすべての行動に当てはめることもできません。

人の場合は、出来事の理由をどう考えたかも関わる

アブラムソンら(1978)は、人が「なぜ自分には状況を変えられなかったのか」と考えることにも注目しました。たとえば「今回は決まりが変えられない場面だった」と受け止めるのと、「どんな場面でも自分が何をしても変わらない」と考えるのでは、次の場面への予想が違います。

研究者たちは、原因を一時的なものと考えるか、長く続くものと考えるか、また一つの場面に限るか、さまざまな場面に広がると考えるかが、影響の続き方や広がり方に関係すると提案しました。さらに、原因が自分自身にあると考える場合には、周囲の状況にあると考える場合より、自分への評価が下がりやすいと予想しました(Abramsonら、1978)。これは人の場合を説明するための理論的な見直しであり、どの人の反応もこの考え方だけで説明できると確かめたものではありません。

身近な場面で考える

たとえば、地域の行事で参加時間について希望を伝えても、何度も変更されなかった人がいるとします。その人が翌年、参加者の希望に合わせて時間を決める新しい行事に誘われても、「どうせ希望を聞いてもらえない」と思い、伝えるのをやめたとします。

前の行事と新しい行事では、意見によって時間を変えられるかどうかが違います。しかし、その人は以前の経験を手がかりに、新しい行事でも結果を変えられないと考えているのかもしれません。これは仕組みを理解するための仮の例です。発言しない理由には遠慮や疲れ、関心の違いなどもあり、一つの心理現象だけで決めることはできません。

この現象を知ると、過去に変えられなかったことと、今も変えられないことを分けて考える視点が得られます。現在の場面で何を選べるのか、試す余地があるのかを確かめることは一つの方法ですが、それによって必ず行動や気持ちが変わると保証するものではありません。

参考文献・出典

  • Seligman, M. E. P., & Maier, S. F. (1967). Failure to escape traumatic shock. Journal of Experimental Psychology, 74(1), 1–9. 刺激を止められる経験と止められない経験が、その後の逃避行動に与えた影響を調べたイヌの研究。書誌情報を確認し、実験条件と結果は2016年の著者らの総説とも照合。
  • Hiroto, D. S., & Seligman, M. E. P. (1975). Generality of learned helplessness in man. Journal of Personality and Social Psychology, 31(2), 311–327. 大学生96人による四つの実験と、別の24人で行った追加実験について、条件と結果を確認した原著論文。
  • Maier, S. F., & Seligman, M. E. P. (2016). Learned helplessness at fifty: Insights from neuroscience. Psychological Review, 123(4), 349–367. 動物の神経科学研究をもとに、受動的な反応と制御を学ぶ働きを区別した総説。
  • Abramson, L. Y., Seligman, M. E. P., & Teasdale, J. D. (1978). Learned helplessness in humans: Critique and reformulation. Journal of Abnormal Psychology, 87(1), 49–74. 人が状況を変えられなかった理由をどう考えるかによって、影響の続き方や広がり方が異なるという理論上の提案。